ボルヘス「推測の詩」の翻訳の一部、三者三様。
原文は今度探す……。がくり。


斉藤幸男訳「エル・オトロ、エル・ミスモ」より。

私の望みは別だった。
判決と書物と助言の人になるはずの私は
いま大空いっぱいの沼地に横たわるだろう。
だが密やかで不可解な喜びで胸が高鳴るのだ。
ああついに己の南米人としての運命に出会ったのだ。


鼓直訳「ボルヘス詩集」より。

別の人間であること、判決文や
書物、報告書の人間であることを願ったわたしが
沼地で野晒しになるのだろうか。
しかしひそやかな喜びがこの不可解な
胸を高ぶらせる。ついにわたしは出会えたのだ。
南アメリカ人としてのわたしの宿命に。


竹村文彦訳「ボルヘスの「神曲」講義」訳者解説より。

もっと別の人間、判決の、書物の、陳述の
人間になりたかった私が、
泥沼に横たわり野ざらしになるのだ。
だが、不思議にも、ひそかな歓喜
私の胸を神の高みへと押し上げる。ついに私はめぐり合ったのだ、
おのれの南アメリカの運命と。


個人的には竹村さん訳が好きだ。