フェルナンド・ペソア最後の三日間

フェルナンド・ペソア最後の三日間

「多重人格」とは多少違うのかもしれないが、この人の「異名」たちのことを知ったとき、「多重人格みたいなもの?」とは思った。フェルナンド・ペソアの最期の三日間、彼の元に訪れるのはそれぞれがそれぞれの物語を持ち、それぞれの物語を語る存在なのだが、それは実際には「存在していない」。しかしそれは「フェルナンド・ペソアという存在を介して」存在している。異なるペンネームというのではなく、「それぞれが物語をもつ別個の存在」としての異名たち。彼らはどこへ行ったのだろう、フェルナンド・ペソアがこの世界に存在することをやめたとき。
これは小説だ。偽りの、想像上の、物語。でも最後の解説までそれにまったく気づかないほどに、異名たちの存在感は強い。一人ひとりが静かに病室を訪れ、それぞれの物語を語り、去っていく。別れを告げるために。彼らは別れを告げて、どこに行ったのだろう、と、時々考える。