生きている。


当分つけていなかった読書メモ。

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 (中公新書)

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 (中公新書)

中世叙事詩はずっと気になっているので面白かった。ただ後半ユング心理学からの解釈がメインとなったのをプラスと見るかマイナスと見るか。


パブロ・カザルス 喜びと悲しみ (朝日選書)

パブロ・カザルス 喜びと悲しみ (朝日選書)

カザルスは聴くより読むことが先行している感。

子供たち一人ひとりに言わねばならない。君はなんであるか知っているか。君は驚異なのだ。二人といない存在なのだ。世界中どこをさがしたって君にそっくりな子はいない。過ぎ去った何百万年の昔から君と同じ子供はいたことがないのだ。ほら君のからだを見てごらん。実に不思議ではないか。足、腕、器用に動く指、君のからだの動き方! 君はシェイクスピアミケランジェロベートーヴェンのような人物になれるのだ。どんな人にもなれるのだ。そうだ、君は奇跡なのだ。だから大人になったとき、君と同じように奇跡である他人を傷つけることができるだろうか。君たちは互いに大切にし合いなさい。君たちは――われわれも皆――この世界を、子供たちが住むにふさわしい場所にするために働かねばならないのだ。


アニルの亡霊

アニルの亡霊

やっと、という感じだろうか。座右の書である『イギリス人の患者』を初めて読んでから六年目にして、オンダーチェの他の小説を読むに至った。
オンダーチェの故郷スリランカのいまだ続く内戦を背景に、一つの人骨をめぐって話は展開する。だが人骨がいったい何者かという問題を解きながら、関与することになる人々それぞれの過去や心境が浮き彫りにされていく。そして『イギリス人の患者』でシンが白い肌の人々と茶色の肌の人々の間の埋めがたい断絶に打ちひしがれて嵐のように去っていったように、問題は未解決のまま一つの破滅に至る。だがその破滅はまた新しい対話の始まりになる。

呆然となったガミニが思うのは、これで終わったということ、あるいはサラスとの永遠の会話が始まったかもしれないということ。いまこのとき兄に語りかけなければ、そうしてもよいことにしなければ、ずっと別れたきりになるだろう。

物語の主題は『イギリス人の患者』とあまり変わらないとおもう。『イギリス人の患者』以外のオンダーチェ作品を読んだことがいかなる読み方の変化をもたらすのか。とりあえず、この本を読んでからそう言えばあまり『イギリス人の患者』をひも解いていない。


チェルノブイリ原発事故 (クリスタ・ヴォルフ選集)

チェルノブイリ原発事故 (クリスタ・ヴォルフ選集)

新聞でこの本について見た日に図書館で見かけたのでそのまま読んだ。
タイトルからすると事故の推移についてのルポルタージュかとおもいそうだが、事故の起こった数日後、小説家が脳手術を受ける弟に遠くから語りかけながら事故をめぐる報道と自身の心情を描き出していく小説。

あなた、わたしはこう考えました。人間は強烈な感情を体験したいのであり、愛されたいのだ、それだけなのだ、以上おしまいと。このことはひそかにみなが知っていることなのですが、この秘められた憧れをみたすことができなかったり、拒まれたりすると、みなは――いや、わたしたち、と言いましょう!――わたしたちは、その代償となる満足をつくりだし、代償的人生に、人生の代償物にしがみつくのです。息つく間もなく拡大し続けているすさまじい技術的創造、それはすべて愛の代償物なのです。(中略)わたしたちは、強烈な感情の解消はわたしたちの内なる人間だけに許されることであり、そのほかのやり方はすべて冒涜で堕落である、と信じている最後の世代なのでしょうか――