NAXOS JAPAN で連載されていた『運命と呼ばないで』が書籍化されたので入手。
運命と呼ばないで: ベートーヴェン4コマ劇場

運命と呼ばないで: ベートーヴェン4コマ劇場

運命と呼ばないで: ベートーヴェン4コマ劇場

運命と呼ばないで ベートーヴェン4コマ劇場

運命と呼ばないで ベートーヴェン4コマ劇場

以下重大なネタばれあり。
書籍版を読んで思ったことは、このマンガは確かに「ベートーヴェン四コマ劇場」と銘打たれているけれど、主役というか物語の中心を貫いているのはリース父子だということ。元々特設ページでの連載もリースの「父さん、……」と呼びかける「父への手紙」という体裁だったことを考えると、書籍版で書き下ろされている序曲と終曲の主役がリース父子になるのはなるほどという感じ。
特に印象的だったのが、序曲でリース父に弟子入りしたベートーヴェンがシラーの詩集を手に取っていること。これは終曲で、ロンドン訪問と作曲を要請したリースの手紙をきっかけにシラーの詩を用いた交響曲第九番第四楽章「合唱付き」、いわゆる「歓喜の歌」をベートーヴェンが作曲し大成功を収めることと対になっており、この終曲自体がリースが故郷ボンに帰り、ベートーヴェンの故郷でもあるこの町(さらには母国ドイツ)での第九の初演をリースが指揮するシーンで終わっている。つまりリース父から始まりリースで終わる物語なんだなあと。
あともう一つは、このマンガは「ベートーヴェンの周りの人々」の物語でもあったということ。もちろん弟子のリースが主人公なので当たり前ではあるけれど、師弟・肉親・親友・恋人・パトロン・ライバルというさまざまな関係の人々を余すことなく登場させ、最後に友情の貴さを高らかに歌う第九へとなだれ込んでいくクライマックスは、「孤高」「孤独」という言葉で飾られがちなベートーヴェンが多くの人に支えられ、また多くの人の支えになっていたことを描き出す話だったことが、書籍版を読むことで明らかになる……という仕組みだと思うので、Web版を読んでみて面白いと思った人はぜひ書籍版を買ってほしい。

しかし何故『運命と呼ばないで』というタイトルになったのか、という説明はいまいち弱かった、と思うのは、ある意味「元ネタ」を知っている身の我がままなんだろうな……。