パート3:聖杯の騎士
漁夫王の苦しみを終わらせる唯一の手立て、それは聖杯の騎士による探求である。時として聖杯の騎士は漁夫王その人の子孫の場合もあるが、騎士本人はそれを知らない。多くの英雄と同様この騎士も孤児であることが多い。騎士は大地に生命と活力を取り戻すべく聖杯を探し求める。しかしそれはまた漁夫王を殺すことであり、この物語の矛盾した側面を示す―――死が生命/再生をもたらすのだ。騎士が彼の使命を遂行したとき、つまり漁夫王を殺したとき、彼は生産性を取り戻した王国を支配する漁夫王の地位を得るだろう。
「マッドマックス 怒りのデスロード」における聖杯の騎士の最有力候補は大隊長フュリオサである。フュリオサは孤児である―――父親については触れられないし、彼女の母親は殺されたことがわかっている。彼女が妻たちを連れていったとき、彼女は本質的に生殖能力の象徴を奪っていったことになる。漁夫王伝説のいくつかのバージョンや、聖杯に関する他の説話において、聖杯は女性の子宮を意味している―――聖杯を生命を育む器と考えれば納得がいくだろう。妻の一人が妊娠しているという事実がこれをさらに裏付ける。
しかし彼女はまた、圧迫と管理に支配された場所よりもその生殖能力を発揮できる場所へと妻たちを連れていかなければならない。こうして彼女は「緑の地」へと彼女たちを連れていこうとする。この物語が伝統的な漁夫王伝説の変奏であるにも関わらず、「緑の地」は荒野のまさしく正反対のものだ。彼女が使命を果せば出現するであろう場所なのだ。皮肉にも、それは彼女が逃げ出してきた場所であることが明らかになる。しかし伝説の中にもこの先例が認められる。伝統的に、騎士は聖杯を探すべく漁夫王の城を突き止める。この城は異なる世界に位置するものであり、その存在は見えたり見えなかったりする。この城にたどり着くには、しばしば仲間の助けだけが頼りになる―――話す動物、または木に登っている子供、さらには漁夫王本人である。こうしてマックスが、仲間である漁夫王として登場する。シタデルへ戻ることがフュリオサ、妻たち、鉄馬の女たちにとって最良の選択であると示すのは彼なのだ。この女性たちはシタデルにおいて自らの力を回復させ、生と死のバランスを取り戻さなければならないのだ。
フュリオサはまたイモータン・ジョーを殺す人間である、そして彼女と妻たち(そしてニュークス)が聖杯の城たるシタデルへ勝利と共に帰還するとき、マックスは民衆の中へと消えていく。彼女は漁夫王二人共を解放したのだ。そしてシタデルの新しい指導者として上りつめていこうとする。
「マッドマックス 怒りのデスロード」における聖杯の騎士が女性であるという事実に私は興奮している。この重要な役割を女性が務める漁夫王伝説を私はこれまで見たことがない。それに生殖能力を取り戻すのが女性だというのはより納得がいく。つまるところ、彼女も子宮を持つからである。